数学の解法は覚えるもの
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小学生の頃、ボクはある問題の解き方を発明しようとしていました。
その問題とは、水の入った容器に、棒をつっこむと水面は何センチ上昇するか?
という問題でした。
この問題は、今も中学入試でよく出るたぐいの問題なのですが、ボクはこの問題のことが、大きくなるまでずっと頭にひっかかっていました。
どんな問題だったか、具体的に書いてみましょう。
底面積10平方センチメートルの円筒型の容器の中に、100ml の水が入っています。
ここへ断面積1平方センチメートルの棒を静かに垂直に差し入れるとすると、水面の高さはどうなるでしょう?
これに対してボクは、次のように考えました。
まず、最初に10センチ棒をつっこんだとき、押しのけられる水の量は、1 × 10 = 10mlです。
1 0mlの水を、底面積1 0c m2 の容器に入れると高さは1c m ですから、水面は1cm上昇します。
でも、そこにも断面積1 cm2 の棒があって、その棒によって押しのけられる水の量は、1×1= 1cm3 です。
この1立方センチメートルの水を、底面積1 0cm2の容器に入れると、その高さは0 .1 cm になりますから、水面はさらに0.1c m 上昇します。
そしてさらに…ボクは、そう考えて、この計算はどこまでも続くなあ。
でも水面はすぐに上昇が止まっちゃうけど、なんでだろうなあ…などとずっと考えていました。
で、答えを見てみると、10 0ml の水を、底面積9平方センチメートルの容器に移すことを考えて、100 ÷ 9 = 1 1 + (1 /9) 、よって「1と9分の1」となっていました。
この答えを見たとき、ボクは「なるほどなあ」と思いました。
そう言う考え方もあるのか、とか、でもなぜそれに気づかなかったのだろう、とか、色々考えました。
ですがその一方で、自分の思いついた方法も、悪くないはずだと思っていました。
どちらかというと、そう考える方が自然なんじゃないかと。
だから高校で数3の「極限」を習ったとき、「ああ自分は間違ってなかった」と感動しました。
ボクの思いついた考えは、実は「無限級数」だったのです。
問題の解き方は、発明しなくていい
小学生の頃の疑問は、そうして高校生の終わり頃になってようやく解けたのですが、しかしそれとは別に、ボクは自分がとんでもないことをしていたのに気づきました。
ボクの思いついたようなことは、何百年も前にもう誰かが考えていたことだったのだ。
そしてその考えをもとに、すでにもう微積分なんてモノができていたのだ。
学校で習うようなことは、自分が生まれる何年も何十年も前に、とっくに発明されているものだという事を、ボクは気がついていなかったのです。
自分が思いつくようなことはたいてい何年も何十年も前の人間がもう思いついていて、すでに何らかの答えを出しているんだということに、ようやく思い当たったのです。
もちろんフェルマーの大定理のように、最近まで400年間も解けなかったような問題もありますが、学校で習うような数学の問題は、みんな既に解決済みだったのに、それを実感として持っていませんでした。
そしてその替わりになぜか、自分は自分の力で解法を発明できるもんだし、そうするべきだと思っていました。
けれど実は、それはとんでもなくおごった考えでした。
数学や物理は、天才や秀才が何年も何十年もかけて、いろいろな定理や法則を発見してきたのです。
ニュートンやライプニツ、ボーアなど、著名な研究者以外にも、何千・何万・何十万の研究者たちが人生をかけてそれぞれの問題に取り組み、志半ばにして死んでいった者も山ほどいます。
そんな中で大きな体系ができあがっていったというのに、ボクはそんな多くの先人たちが見つけてきた解法を、二十歳前後の自分が1人で発明したり発見したりできるだなんて、思っていました。
なんておごった考えでしょう。
でもしかしボクは実際、そんな風に考えて、高校時代まで勉強していたのです。
だから英語なども、英文を覚えるというようなことはまるでやらず、英単語を日本語に訳し、それを何とかかんとかくっつけたり離したりして、怪しい日本語訳を自分で発明するようなことを続けていたのです。
しかし受験生は、問題の解法を自分で発明する必要は、ないのです。
過去に幾多の研究者が取り組み、そして発見したり発明してきた様々な成果を、彼らの努力に感謝しつつ、自分の身につければよいだけなのです。
だからくれぐれも、必要以上に時間を使って、問題を考えないでください。
それはもしかすると、その分野の先人が一生かけて解いた問題なのかも知れないのです。
それをあなたが発見したり発明するなら、同じくらい時間がかかるかも知れません。
あなたは目の前の受験を放っておいて、もうすでに他人によって解かれている問題を、一生かけて解きますか?
あなたには、もしかしたら世界中であなたにしかできないソリューション(問題の解決)があるかも知れないと言うのに。
受験生のやるべき事は、問題の解法を自分で発明することではなく、それを整理して自分の頭脳の糧にすること、ただそれだけなのです。